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のぅは魚になっても泳げない

泳げない日々の記録

3月25日/遠い目/見たもの

 

3月25日

開けた窓から湿った空気が流れてくる。雨上がりに小学校から帰る時ってこんな匂いがしたなぁと考える。

最近鼻血がよく出るようになった。花粉症で鼻の粘膜が弱ってるからだと思うけど、このまま何かの病気で死んでしまえばいいなと思ってしまう。晩御飯で肉や魚が焦げていた時も、癌になって死んでしまえばいいと思いながら焦げを食べている。

マドレーヌを作ろうと思って材料を買ったけど結局作らなかった。海に行こうと思って経路を調べたけど面倒くさくなってやめた。そんなふうにして死んでいくんだろうな、となんの感情も伴わずに思う。

爪が伸びている。爪が伸びている時は何一つ上手くいかない気がする。

親に酷いことを言った。わたしの親はとてもいい人なのに、わたしが最低な人間なのでかわいそうだ。自分なんかいなければいいのにと、自分に死ね死ねと言ってしまう。親を平気で傷つけて、親を傷つけたことに罪悪感を抱き、自己嫌悪に陥ってしまう。いつものパターンだ。

 

…これは昨日書いてたやつなんですけど、すごい病んでますね。朝から親に怒鳴ってしまって落ち込んでいるわたしの様子です。

今日は爪を切ったので何もかも上手くいきました。みんなも爪切った方がいいよ。

 

 

遠い目

小学6年生の時の担任は30代半ばの女の先生だった。子供に興味が無さそうでいつも無表情。笑ったところは3回しか見たことない。1回めは卒業アルバムの写真撮影の時。あとの2回は覚えてないけどさすがに2回くらいは笑ってるだろうということで。なんで教師をしているのか分からなかったし、生きてて楽しいのかなと思った。余計なお世話ですね。

今から書くのは小学校最後の家庭科の授業でのこと。その日は家庭科室で「6年3組お別れパーティー」が開かれた。先生が一人一人に小さいロールケーキを買ってきて、それにイチゴや生クリーム、パイナップルやアポロやマーブルチョコなどを各自飾り付けて食べる、小さなお茶会のような感じだった。飲み物は紅茶とレモンティーとストロベリーティーがあり、わたしはストロベリーティーにした。あんまり美味しくなかった。

みんな友達と喋ったりケーキを食べたりと忙しそうだった。ケーキ美味しいのにお茶不味すぎるな、と思いながら、なんとなく家庭科室の一番前、先生が座る大きな机に目を向けると、先生は一人で静かにレモンティーを飲みながら、頬杖をついて、窓の外をぼーっと眺めていた。先生の周囲だけが騒がしい家庭科室から切り取られているかのように、しんとしていた。その時の先生の目を今でも忘れることができない。そのぼんやりとした目は、西日に照らされた花壇を越えて、フェンスに止まっている雀を越えて、もう二度と歩かないであろうプールサイドを越えて、町を、国を、海を越えて、遠い異国の風景を映していた。

 

広い砂漠の中心にある、赤いレンガでできた家が10軒ほど集まってできた小さな町。周りには砂以外何も無く、家と家を繋ぐ細い路も赤いレンガでできている。塀はない。どこか遠くから名前の知らない楽器が奏でる、掠れた音楽が流れてくる。それが町の静寂をより一層強調していることに奏者は気づいていないのだろう。日が傾き始めていた。路に積もった砂を夕日が照らす。人が歩いた痕跡は無く、きっともう何年もこのままだったんだろうなとそんな気がした。恐ろしいほどに人の気配が無かった。しかし、この町はそれで良かった。日が砂漠の端に触れた。砂漠の夕焼けは赤かった。もともと赤いこの町を夕日が更に赤くした。心臓のようだと思った。もう二度と動かない心臓のようだと思った。そんな赤だった。この町はそれで良かった。赤が濃くなり、滲み、次第に紫色になり、濃くなり、滲み、やがて夜になったが、町に明かりが灯ることは決して無かった。海に波があること、空に星があること、草原に風があること。この町に明かりが灯らないことはそれらと同じように当然のことで、それにとても安心した。月が明るかった。掠れた音楽はまだ流れていた。もしかしたらそれはどこかの家で、未だに回り続けているレコードから流れているのかもしれない。聴く人も、止める人もいないままレコードは回る。終わらないレコードはいつまでも終わらないままなのだろう。何千年後も何万年後も音楽は流れ続け、町は染まり続け、砂漠は在り続ける。そして音楽は、町は、砂漠は、きっとそれで良いのだろう。月明かりに照らされた町は透き通って見えた。

 

そんな町をわたしは先生の目の中に、確実に見た。実際はただ校庭をぼんやり眺めていただけなのかもしれないけど、その遠い目の奥にある孤独は、憂鬱は、偽物なんかじゃなかった。

その時の先生よりも遠い目をした人を、わたしは見たことがない。

 

 

見たもの


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窓辺に色褪せた靴下が掛かっていた


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よく見るとくまさんが付いている

 

 


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昔は50円だったんだろうな

 



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母がお葬式で貰ってきた花

部屋が温室のような匂いになった

花に抱かれて死んでいく人を思う

三日も経てば枯れてしまう花たちは、何も言わずに、ただただ空気を甘くしていた

 

 

 

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夏があった