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のぅは魚になっても泳げない

泳げない日々の記録

冬の夜とお守り

もしかしたら小学5年生の冬に死んでたかもしれない。

その頃わたしは不登校で、ずっと家でチャレンジ5年生をしたり、本を読んだりしていた。1週間に1回、家にカウンセラーの人が来て他愛ない話をしたり、お菓子を食べたりした。わたしはその人が来るのが憂鬱で、「人に会いたくないから学校に行ってないのになんで人が来るんだ…」といつも思っていた。

ある日、カウンセラーの人が帰ったあとに気持ちが荒れまくってしまった。理由は覚えていないけど、多分もう嫌になったんだろうね。家に人が来るのも、意味の無い話をするのも、学校も、自分を心配する親も、全部。

机の上の教科書やノートを全部床に投げ落とした。そして蹴った。踏んだ。破った。机を叩いた。鉛筆を折った。椅子を倒した。ランドセルを蹴った。引き出しの中身も全部ひっくり返して散らかした。ランドセルのお守りが千切れているのに気がついた。こんな状況の中でも平気な顔で学業成就を祈っているお守りに心底腹が立って、落ちていたハサミでお守りを切った。縦に1回、横に2回ハサミを入れて、お守りはただの6つの欠片になった。つまらなかった。もう終わりだと思った。こんなに部屋がぐちゃぐちゃだから。ドアの前でお母さんが泣いているから。妹と弟が怯えているから。祖父の不眠症が酷くなるから。無理して笑う祖母の顔をもう見たくないから。

自分が泣いていることに気がついた。手の平から血が出ていた。どこかで切ったのだろう。痛みはなかった。もう、本当に終わりだと思った。死ぬことにした。

そうと決めてからは早かった。

まず部屋を片付けた。破れた教科書とノートを棚にしまった。ランドセルを掛けた。椅子を立て直した。ゴミはちゃんと捨てた。お守りはセロハンテープで修理した。お守りを切ったことを少し後悔した。引き出しもきちんと戻した。

部屋が片付いた。

 

家の近くには5階建ての団地がある。団地の階段に鍵や扉は無く、誰でも入れることをわたしは知っていた。5階から飛び降りようと思っていた。

 

部屋を出ようとした時、この前みんなから貰った手紙をまだ読んでいなかったことを思い出した。学校を休んでいる自分へ、クラスのみんなが一人一枚ずつ書いた手紙だった。本当に、本当にどうでもよかったんだけど、ほんの少しだけRくん(その時好きだった人)がなんて書いているのか気になって、どうせ死ぬし読んでおこうと思った。

ランドセルの中に仕舞っていたそれを取り出す。名簿順になっていたので18枚目だけを捲って読む。

そこには、「のぅちゃんがいないからぼく図書委員の任事ぜんぜんしてないから早く来ていっしょにしようね」ってだけ書いてあって、いや図書委員の仕事ちゃんとしろよとか、仕事の「仕」間違ってるしとか、名前を書かない癖はそのままだねとか、これを書いたらわたしが来ると思ったのかなとか、色々考えると面白くて自然と笑っていた。(Rくんへ:図書委員の仕事を押し付けてごめんね、ありがとう)

わたしがこのまま死んじゃったらRくんは一生図書委員の仕事しないまんまなんだろうなーって思うと可笑しくて、号泣した。

お母さんが部屋に入ってきて抱きしめてくれて、結局その日はそのまま寝て、次の日も学校には行かないで、家でチャレンジ5年生と読書と散歩をした。昨日のことは夢だったのかもしれないと思った。

 

実はあの時切ったお守りをまだ持っていて、それを見る度にあの夜のことを思い出してしまう。あの時Rくんの手紙を読まなかったら死んでたのかなとか、多分お母さんに止められてただろうなとか、でも気づかれずに家を出れたら死んでいただろうなとか、色々考える。

でもまぁ今は素敵な音楽はあるし、美味しいものもあるし、楽しみなこともあるし、楽しいこともあるし、これからどうなるかはわからないけど多分大丈夫だから、とりあえずこのまま生きていようかなという気持ちです。

 

もうじき夏も来るしね。